今や日本男子の世界ランキングは7位とかなり上位に位置をつけています。
この世界ランキングはどのようにして決まっているのでしょうか?
今回はそんな疑問に応えていきたいと思います。
世界ランキングとは?
世界ランキング(World Ranking score, WR score)は現在のそのチームの強さを反映するものです。
ポイントで示され、数値の大きいチーム = 強いチームとなります。
また、今後出てくる用語ついて似たような表現があるため図にして示しておきます。
以下の図を参考に読み進めてみてください。
世界ランキングの仕組み
2020 年、ポイントの算出方法が改定された
2020 年 2 月から FIVB のポイントの算出方法が変更されました。
旧ランキングでは、主要大会の順位に応じてのみポイントが付与されていたため、開催国枠で参加するだけでもある程度のポイントが獲得できることや、ヨーロッパなどレベルの高い地域ではポイントが稼ぎづらいといった問題がありました。つまり、相対的な強さが反映されていなかったのです。
そこで、大会中の1試合ごとに、勝敗やセット数によってポイントが変動することで、相対的な強さが反映できるシステムに変更されました。
現在のポイントの算出方法
まず初めに、各試合の前に、2 つのチームの世界ランキングのスコアが比較されます。世界ランキングのスコアが高いチームがこの試合で強いチームとして識別されるため、対戦相手よりも優れたパフォーマンスを発揮することが期待されます。
次に、両チームの世界ランキングのスコアと過去の試合データに基づいて、試合結果(3-0 / 3-1 / 3-2 / 2-3 / 1-3 および0-3)すべての確率を計算し、それぞれのポイントを算出します。
そして、実際の試合結果と上記の計算を照らし合わせます。
期待される結果と実際の試合結果が近いほど、ポイントの上り幅・下がり幅は小さくなり、
逆に遠い(予想外の結果)ほどポイントの上り幅・下がり幅は大きくなります。
このポイントの増減により、世界ランキングのスコアが変動し、世界ランキングの順位が変わっていきます。
具体例
ここで、日本を例に見ていきましょう。
・日本(7位)VS フランス(当時2位)
→予想:フランスの方が強く世界ランキングにも差があるため、3-0 か 3-1 で勝つ確率が高いと予想します。
→結果:3-2 でフランスの勝利。日本は負けましたが格上に善戦したため、ポイントの変動は -0.01 ととても小さいものとなりました。逆に、フランスは格下に辛勝であったため、ポイントは +0.01 しか上がりませんでした。
・日本(7位)VS 中国(26位)
→予想:日本の方が強く世界ランキングにも差があるため、3-0 か 3-1 で日本が勝つ確率が高いと予想します。
→結果:3-1 で中国の勝利。日本は格下に悪い結果で負けてしまったため、ポイントが -11.71 と大幅に下がってしまいました。逆に、中国は格上に良い結果で勝てたため、ポイントが +11.71 と大幅に上がりました。
同じ負けでもこのようにポイントの変動が違うのです。
ポイントの算出方法
計算式
今までは、ポイントがどのようにして変動するのかという考え方を上記で示しました。
ここからは、その考え方を実際にどのような計算式で行ているのかを記していきます。
実際、とても複雑なので見たい方だけ見てください。(^^;
計算式に出てくる記号の定義
まずは計算式に出てくる記号の意味をお示しします。
3-0 / 3-1 / 3-2 / 2-3 / 1-3 / 0-3 となる確率 | P1 / P2 / P3 / P4 / P5 / P6 |
平均 0、標準偏差 1 の正規分布 | ~N(0,1) |
チームの戦力差 | △ |
標準倍率 | 8 |
チームの世界ランキングのスコア | WRS1 / WRS2 |
過去 10 年間の試合結果から導き出された、2つの同じ強さの 対戦相手との試合の平均結果を表す正規分布のカットポイント | C1 / C2 / C3 / C4 / C5 |
試合予想の結果 | EMR |
セット差におけるポイント | SSV |
その大会のウェイト | MWF |
それでは計算を始めます
まず初めに、チームの戦力差(△)を計算していきます。
△ = 8 * (WRS1 – WRS2) / 1000
続いて、3-0 / 3-1 / 3-2 / 2-3 / 1-3 / 0-3 となる確率(P1 ~ P6)をそれぞれ計算していきます。
3 – 0 となる確率 (P1) = ~N(0,1)(C1 + △)
3 – 1 となる確率 (P2) = ~N(0,1)(C2 + △) – ~N(0,1) (C1 + △)
3 – 2 となる確率 (P3) = ~N(0,1)(C3 + △) – ~N(0,1) (C2 + △)
2 – 3 となる確率 (P4) = ~N(0,1)(C4 + △) – ~N(0,1) (C3 + △)
1 – 3 となる確率 (P5) = ~N(0,1)(C5 + △) – ~N(0,1) (C4 + △)
0 – 3 となる確率 (P6) = 1 – ~N(0,1)(C5 + △)
上記を導き出せたら、試合の予想結果 (EMR) を数値として出していきますが、ここでセット差におけるポイント (SSV) の数値が必要となってくるのでお示しします。
試合結果 | SSV |
3-0 | +2 |
3-1 | +1.5 |
3-2 | +1 |
2-3 | -1 |
1-3 | -1.5 |
0-3 | -2 |
上記の数値をもとに、EMR を算出していきます。
EMR = P1 * SSV + P2 * SSV + P3 * SSV + P4 * SSV + P5 * SSV + P6 * SSV
= P1 * (+2) + P2 * (+1.5) + P3 * (+1) + P4 * (-1) + P5 * (-1.5) + P6 * (-2)
この EMR と実際の試合結果に基づく SSV との差から WR 値が導き出せます。
SSV – EMR = WR 値
最後に、ポイントを算出していきますが、ここで大会ごとのウェイト (MWF) が必要となるため、お示しします。
大会 | MFW |
オリンピック | 50 |
世界選手権 | 45 |
ネーションズリーグ (VNL) | 40 |
オリンピック世界最終予選 | 35 |
大陸選手権 | 35 |
チャレンジャーカップ (VNL 出場をかけた試合) | 20 |
大陸選手権の最終予選 | 17.5 |
その他の大陸連合による年次公式イベントの開催 | 10 |
それでは、ポイントを算出しましょう!
ポイント = WR 値 * MWF / 8
このポイントは、計算してみるとわかると思いますが、勝利したチーム / 敗北したチームに
同じポイントが加点 / 減点されます。
ただ、これらの定義を示されても頭に入ってこないですよね。
具体例を見ながら解説していきます。
具体例
日本 VS ブラジルを具体例に示していきます。これは FIVB の公式サイトにも乗っている情報なので、より詳しく知りたい方は ”参照” の URL をご覧ください。
対戦前情報
初めに、対戦する前の情報として
日本の世界ランキングのスコア:192 (11位)
ブラジル世界ランキングのスコア:415 (1位)
と定義しておきます。(カッコ内は世界ランキング)
計算スタート!
まずは、チーム戦力差、正規分布のカットポイント(C1~C5)について計算します。
△ = 8 * (WRS1 – WRS2) / 1000 = 8 * (415-192) / 1000 = 1.784
C1 = -1.060
C2 = -0.394
C3 = 0
C4 = 0.394
C5 = 1.060
すると、3-0 / 3-1 / 3-2 / 2-3 / 1-3 / 0-3 となる確率は、
3 – 0 となる確率 (P1) = ~N(0,1)(C1 + △) =76.5 %
3 – 1 となる確率 (P2) = ~N(0,1)(C2 + △) – ~N(0,1) (C1 + △) = 15.2 %
3 – 2 となる確率 (P3) = ~N(0,1)(C3 + △) – ~N(0,1) (C2 + △) = 4.5 %
2 – 3 となる確率 (P4) = ~N(0,1)(C4 + △) – ~N(0,1) (C3 + △) = 2.2 %
1 – 3 となる確率 (P5) = ~N(0,1)(C5 + △) – ~N(0,1) (C4 + △) = 1.2 %
0 – 3 となる確率 (P6) = 1 – ~N(0,1)(C5 + △) = 0.2 %
となります。
これを見ると、日本が勝つ確率はとても低いことが分かりますね。。。
続いて、EMR を算出していきます。
EMR = P1 * (+2) + P2 * (+1.5) + P3 * (+1) + P4 * (-1) + P5 * (-1.5) + P6 * (-2)
= 76.5 % * (+2) + 15.2 % * (+1.5) + 4.5 % * +1 + 2.2 % * (-1) + 1.2 % * (-1.5) + 0.2% * (-2)
= +1.76
それでは最後に、ポイントを算出していきましょう。
・ブラジル VS 日本 = 3-0 の場合
WR 値 = SSV – EMR = +2 – (+1.76) = +0.24
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = +0.24 * 45 / 8 = +1.35
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 + 1.35 = 416.35
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 – 1.35 = 190.65
・ブラジル VS 日本 = 3-1 の場合
WR 値 = SSV – EMR = +1.5 – (+1.76) = -0.26
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = -0.26 * 45 / 8 = -1.46
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 + 0.01 = 415.1
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 – 0.01 = 191.9
ここで重要なのは、ポイントがマイナスになったとしても試合に勝てば、世界ランキングのスコアは減少せず、最小限のポイントが付与されるという点です。ブラジル VS 日本 = 3-2 の場合においても同様なことが起こっています。
・ブラジル VS 日本 = 3-2 の場合
WR 値 = SSV – EMR = +1 – (+1.76) = -0.76
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = -0.76 * 45 / 8 = -4.27
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 + 0.01 = 415.1
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 – 0.01 = 191.9
・ブラジル VS 日本 = 2-3 の場合
WR 値 = SSV – EMR = -1 – (+1.76) = -2.76
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = -2.76 * 45 / 8 = -15.52
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 – 15.52 = 399.48
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 + 15.52 = 207.52
・ブラジル VS 日本 = 1-3 の場合
WR 値 = SSV – EMR = -1.5 – (+1.76) = -3.26
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = -3.26 * 45 / 8 = -18.34
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 – 18.34 = 396.66
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 + 18.34 = 210.34
・ブラジル VS 日本 = 0-3 の場合
WR 値 = SSV – EMR = -2 – (+1.76) = -3.76
ポイント = WR 値 * MWF / 8 = -3.76 * 45 / 8 = -21.15
ブラジルの新しい世界ランキングのスコア : 415 – 21.15 = 393.85
日本の新しい世界ランキングのスコア : 192 + 21.15 = 213.15
ブラジル VS 日本 の試合結果 | 確率 | ブラジルのポイント | 日本のポイント |
3-0 | 76.5% | +1.35 | -1.35 |
3-1 | 15.2% | +0.01 | -0.01 |
3-2 | 4.5% | +0.01 | -0.01 |
2-3 | 2.2% | -15.52 | +15.52 |
1-3 | 1.2% | -18.34 | +18.34 |
0-3 | 0.2% | -21.15 | +21.15 |
以上の結果から、ブラジルは日本に勝っても大して世界ランキングのスコアは変わらず、逆に日本はブラジルに勝てば世界ランキングのスコアが大幅に上がることが分かります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
正直計算については、分からなくてもいい部分ではあります。
そのため、今回の記事では、
「期待される結果と実際の試合結果が近いほど、ポイントの上り幅・下がり幅は小さくなり、
逆に遠い(予想外の結果)ほどポイントの上り幅・下がり幅は大きくなる」
これだけは覚えておきましょう!
参照
FIVB 世界ランキング https://en.volleyballworld.com/volleyball/world-ranking/men