よくバスケットボールやラグビーなどのコンタクトスポーツの選手が着用しているマウスガード。
バレーボールでつけている選手を見たことはあまりありません。
バレーボールでは装着しなくてよいのでしょうか。
今回は、スポーツと歯の関係も含めて解説していきます。
マウスガードについて
マウスガードってなに?
マウスガード(マウスピース)は、歯牙の表面(主に上顎)に装着する軟質プラスチックでつくられたプロテクターのことです。
マウスガードをつける必要性はあるのか
マウスガードは、ボクシングなどの格闘技、あるいはラグビーやバスケットボールなどの激しい衝突を伴うスポーツを行う際、衝撃から歯の損傷や歯による口内の裂傷を防ぎ、脳への振動を軽減するための器具としてつくられました。
スポーツで失う歯は圧倒的に上顎の前歯です。永久歯は失うと 2 度と生えて来ることはありませんし、折れても再生しません。前歯の喪失は、食べる・話す・表情を作るなどの働きを失うことにつながります。
また、研究によってマウスガードは噛みしめた時の歯のひずみを軽減できるものだということも分かってきました。
マウスガードは小さいながらも、より安全に安心してスポーツができる機能があります。
マウスガードの着用義務のあるスポーツ
マウスガードの着用がルールで義務付けられているのは、ボクシング、アメリカンフットボール、アイスホッケー、ラグビーなどです。
バレーボールは、推奨ではありますが義務ではありません。
マウスガードをつけるデメリットはあるのか?
不快感や息苦しさ、コミュニケーションの取りづらさがあるようです。
しかしながら、1 週間後にはすでに改善されているという報告もあるため、慣れの問題でもあるようです。
スポーツと歯は関係あるのか?
近年、噛むことがスポーツにもよい効果を発揮することがわかってきました。「スポーツ歯学」という分野ができるほど、研究が進められています。
それでは、「歯」と「スポーツ」にはどういった関係があるのでしょうか。
「歯」と「スポーツ」の関係
スポーツが歯に与える影響
以前、バレーボール選手に対して歯の健診を行ったところ、むし歯になったことのある歯の数は一般の方と比較すると約 1.5 ~ 2 倍多くあったそうです。
これは、脱水症状、電解質不足の予防のために、スポーツドリンクの摂取回数が多いためだと考えられます。そのため、激しいスポーツする人は、一般の方よりむし歯になる危険性が高い環境にあるようです。
また、嚙み合わせや顎関節の異常も起こります。これは、競技中の食いしばりや、顎への衝撃によるものが原因として考えられます。
「噛むこと」とスポーツ
「噛みしめる」ことは体を固定することになり、ラグビーのスクラム、アメリカンフットボールのブロック、綱引きのパワーホールドなど動きの止まったときに力を発揮するのに効果があります。
「噛み合わせる」ことは、一旦体の動きを止め、次の動作に移りやすくなります。そのため、噛み合わせがいいことはボクシングやバスケットのように瞬間的に動作の方向を変えねばならないスポーツに有効となります。
「噛むこと」とスポーツのパフォーマンス向上について
筋力
上下の歯が合わさると、「噛んだ」という情報が、脳の「運動野」という場所に伝達され、体を動かす「骨格筋」などの反応や動きに影響を与えます。
さまざまな研究から、歯をしっかりと食いしばることで、筋力が 4 ~ 6% 程度アップすると言われています。わずかのように思うかもしれませんが、コンマ 1 秒が重要な競技では 1% でも勝敗を分ける大きな差となりえます。
重心・姿勢
上下の歯の噛み合わせが悪いと重心がブレやすいことがわかっています。特にポイントになるのが、奥の歯です。前歯で噛みしめるのではなく、しっかり奥で噛むようにしましょう。
また歯を噛みしめると、首にある胸鎖乳突筋などの筋肉に力が入り、首が安定します。首が安定すると体の軸がぶれないので、結果的に体が動かしやすくなったり視線が定まったりするため、パフォーマンスの質の向上につながります。
集中力・判断力
噛むことで認知機能を司る前頭前野の血流がよくなり、集中力と判断力が高められます。
噛むことと関係のないスポーツはあるのか
マラソンや野球のピッチングやゴルフスイングなど連続する動きが必要なスポーツは噛まないほうがいいとされています。
また、俊敏性の高いスポーツも噛みしめないほうがいいとされています。そのため、高い俊敏性が求められるバレーボールは噛むことをあまり意識しないほうがよさそうです。
なんでもかんでも「噛むと力が出せる」と考えるのは良くないようです。逆効果になる場合もあるので注意しましょう。
マウスガードによってパフォーマンスは向上するのか?
マウスガードの装着により、その厚みの分だけ上下の歯の噛み合わせが良くなります。この噛み合わせの改善が、パフォーマンス向上に寄与していると考えられます。
噛むことが望ましくないスポーツもあると考えると、どの競技においてもマウスガードを装着すれば、パフォーマンスが向上するとは考えにくいでしょう。
バレーボール選手はマウスガードをつけるべきなのか?
以上のことを踏まえつつ、バレーボール選手はマウスガードをつけた方がいいのでしょうか。
高等学校におけるケガの統計によると、バレーボールはラグビーを上回り、サッカー、バスケットボールなどのコンタクトスポーツと同等の数字を残しています。これは味方の選手との接触や、転倒時に硬い床との接触、ボールを追って用具との接触等が原因と考えられます。
このなかで、歯のケガがどれくらいあるのかは正直分かりませんが、歯は一生モノですので、歯を守る目的でマウスガードを着用することはいいでしょう。
一方で、現状においてマウスガードの着用によってバレーボールのパフォーマンスが向上したという報告はありません。
したがって、歯の保護のためにマウスガードを装着することは良いですが、パフォーマンス向上が目的で装着することは現状あまり賢明とは言えないのかもしれません。
参照
JVA_バレーボールと歯について https://www.jva.or.jp/play/health_care/tooth.html
噛むこと研究室 https://www.lotte.co.jp/kamukoto/
愛媛県歯科医師会 https://ehimeda.or.jp/mouthguard/index.php?p=exercise-capacity
日本歯科医師会 テーマパーク 8020 https://www.jda.or.jp/park/
武田 友孝、黒川 勝英、石上 恵一ほか : 噛みしめ時の歯のひずみに対するマウスガードの効果 補綴誌 J Jpn Prosthodont Soc 49:608-616, 2005
正村正仁 : マウスガードの歯および歯周組織への効果 松本歯学 33:255~268,2007
山崎泰嗣,鈴木卓哉,照井淑之,金村清孝,石橋寛二:マウスガードがスポーツパフォーマンスに及ぼす影響 スポーツ歯誌 7:7-11,2004